セックスが痛いのは、我慢が足りないからではない——痛みを4つに分けて、今夜からできることまで
性交痛は「気合い」や「相性」の問題ではなく、原因を特定できるからだの現象です。痛みを4つの型に分解して、それぞれの仕組み・自分でできる対処・受診すべきラインまで説明します。
痛いのを我慢しながら、続けている。そういう人は、あなたのほかにも大勢います。全国調査をもとにしたジェクス社の発表では、性交痛の経験がある女性は10〜20代で53.6%、30代で62.1%(ジャパン・セックスサーベイ2024)。半分以上が経験しているのに、同じ調査は「性交痛対策をしている割合は低い」とも指摘しています。
つまり、痛いのはあなただけではないし、対処されないまま放置されているのが普通、という状態です。この記事では、痛みを4つの型に分けて、それぞれの仕組みと、自分でできる対処と、受診したほうがよいラインを説明します。
痛みは4つに分かれる
「痛い」とひとことで言っても、場所とタイミングで原因はまったく違います。まず自分の痛みがどれに近いかを見てください。
| 型 | どんな痛みか | 主な原因 |
|---|---|---|
| A 入口の鋭い痛み | 挿入の瞬間、入口が切れる・こすれるように痛い | 潤滑不足・急ぎすぎ |
| B 奥の鈍い痛み | 深く挿入されたとき、お腹の奥が重く痛い | 深さと角度(からだの構造への物理的な接触) |
| C ヒリつき・灼熱感 | 最中や終わったあとに、ヒリヒリ・カッと熱く痛い | 摩擦後の炎症、または感染症の可能性 |
| D 締めつけられる痛み | 挿入しようとすると、からだが硬くなって入らない・激痛 | 骨盤底筋の不随意な収縮(腟けいれん) |
厚生労働省研究班監修のヘルスケアラボによれば、性交痛は「女性の約10〜20%で経験する」とされ、原因には炎症・感染、乾燥・潤滑不足(産後・授乳期、更年期などの腟粘膜の変化)、子宮内膜症などの骨盤内疾患、それに不安やトラウマといった心理的要因が並びます。身体と心理の両方が原因のリストに入っている——ここが大事なところで、どちらであっても「気のせい」ではありません。
A:入口の鋭い痛み——いちばん多く、いちばん対処しやすい
なぜ起きるのか
腟の入口は、潤滑が足りない状態でこすれると簡単に傷みます。そして潤滑が足りなくなる理由は「感じていないから」だけではありません。緊張、時間の不足、ホルモンの状態(産後・授乳期・更年期はエストロゲンの低下で腟粘膜が乾燥しやすくなります)、服薬の影響——どれでも起きます。
「濡れていない=気持ちが盛り上がっていない」という思い込みは、自分を責める材料になりがちですが、生理学的には正確ではありません。このズレについては別の記事で詳しく説明しています。
今夜からできること
急がないことと、潤滑剤。 この2つでかなりの部分が対処できます。
急がない、は精神論ではありません。潤滑には時間がかかります。挿入までの時間を意識して長く取る——それだけで、入口の条件は物理的に変わります。
そしてもうひとつ、知っておいてほしい循環があります。一度痛むと、「また痛むかも」という身構えが生まれます。身構えは緊張になり、緊張は潤滑を減らし、また痛む。痛みの記憶が、次の痛みを作る。 この循環に入っている人はとても多く、そして循環の抜け口は「今夜は痛くなかった」という一回を作ることです。そのための道具が潤滑剤です。
潤滑剤(潤滑ゼリー)は、医療の文脈でも性交痛への対処として普通に挙げられるものです(ヘルスケアラボも「潤滑ゼリーで性交時の痛みを和らげることも可能です」と明記しています)。「潤滑剤に頼るのは負け」という感覚が、もしあれば——目が乾く人が目薬をさすのと同じことです。気持ちの敗北ではなく、状態への道具です。定番は、日本家族計画協会の医学委員会が開発した「リューブゼリー」のような水性の潤滑ゼリー。種類の違いと選び方は潤滑剤の記事に書いています。
ひとつだけ安全上の注意があります。オイル系のものをラテックス製コンドームと併用しないこと。 オカモトの公式注意書きに「オイルなどの油脂物質とコンドームが接触すると、コンドームが劣化し、破損のおそれが生じます」とある通りです。コンドームと併用するなら水性(水溶性)を選んでください。
B:奥の鈍い痛み——深さと角度の問題
なぜ起きるのか
腟の奥には子宮頸部があり、その周辺には卵巣などの臓器があります。深い挿入でここに物理的に届くと、鈍く重い痛みが出ます。奥行きや臓器の位置には個人差があるので、痛む角度・深さも人によって違います。相性の問題に見えていたものが、調べてみれば角度と奥行きの問題だった——というのは、珍しいことではありません。
今夜からできること
深さを自分の側で加減できる体位に変えるのが最短です。自分が上になる、横向きになる、腰の下にクッションを入れて角度を変える——どれも「奥に当たる深さ」を物理的に調整する方法です。痛む配置を避けることは、逃げでも手抜きでもありません。
ただし、浅くても・どの体位でも奥が痛い場合は、この記事の範囲を超えます。子宮内膜症などの骨盤内疾患が痛みの原因になることがあるためです(ヘルスケアラボの原因リストにも明記されています)。後述の受診ラインを見てください。
C:ヒリつき・灼熱感——セルフケアで引っ張らない
最中や後にヒリヒリする、熱を持つように痛む、かゆみを伴う。この型は、単なる摩擦後の炎症のこともあれば、カンジダ腟炎などの感染症のこともあり、自分では見分けがつきにくいのが特徴です。
だからこの型については、この記事はセルフケアを勧めません。数日でおさまらない、繰り返す、おりものの変化やかゆみを伴う——どれかに当てはまるなら婦人科へ。この型を我慢や市販薬で引っ張るのは、時間を失うだけです。
D:締めつけられる痛み——「心の問題」と片付けない
挿入しようとするとからだが硬直して入らない、激痛で続けられない。これは腟けいれん(骨盤底筋の不随意な収縮)と呼ばれる、名前のついた状態です。「気持ちの問題」「慣れれば治る」と言われがちですが、意思とは無関係に筋肉が収縮する身体反応であり、根性論の対象ではありません。
医学的には段階的な対処法が確立しています。少しずつ慣らしていく脱感作の方法や、医療者の指導のもとで使う腟ダイレーターという器具があり、日本性科学会も「ワギニスムスや性交痛に対する腟周囲筋のリラクセーション法の習得」を用途として案内しています。確立した対処がある=ひとりで抱える必要がない、ということです。この型に心当たりがあれば、婦人科で「挿入時に筋肉が収縮して痛む」と伝えてください。
受診のライン
次のどれかに当てはまったら、セルフケアの段階ではありません。
- 性交時に出血を伴う
- 性交以外のときも痛む
- どの体位・どの深さでも常に奥が痛い
- ヒリつき・かゆみ・おりものの変化が数日以上続く/繰り返す
- 挿入自体ができない(D型)
受診をためらっている人へ
婦人科で性の悩みを話すのは気が重い、という理由で受診が遅れるのはよくあることです。なので、伝え方だけ用意しておきます。受付や問診票には「性交時の痛み」とだけ書けば通じます。診察で聞かれるのは主に「いつから・どこが・どんなときに痛むか」の3点なので、この記事の4つの型のどれに近いかをメモしていくと、そのまま答えになります。
内診に不安がある場合は、「内診が不安です」と最初に伝えてかまいません。それを踏まえた進め方をしてくれますし、つらければ途中で中断を申し出てよいものです。性交痛の相談は症状の診察なので、通常の婦人科の保険診療として受けられます。
パートナーへの伝え方
最後に、いちばん言いにくいことについて。これまで我慢して合わせてきたことを、責める話ではありません。ただ、痛みを隠し続けることは、これから先のふたりの土台を静かに削っていきます。全部を説明する必要はありません。短い一言で足ります。
- 「この角度だと痛いから、こっちにしたい」(B型:解決策と一緒に伝える)
- 「今日はもっとゆっくりがいい」(A型:急がない、を共有する)
- 「痛みの原因を調べてるから、少し協力してほしい」(原因究明を共同作業にする)
もし伝えても流されるなら、それは伝え方の問題ではありません。あなたの痛みの扱われ方の問題です。
我慢して合わせる以外の選択肢は、あります。それを選ぶことは、関係を壊すことではなく、続けるための手入れです。