「防げるのは、コンドームだけ」——避妊法の選び方は、妊娠を防ぐ効果だけで決まりません
避妊効果を上げれば、その分だけ性感染症からも守られる——そう考えていませんか。WHOの家族計画ファクトシートは、妊娠と性感染症の両方を防げる避妊法はコンドームだけだと明記しています。コンドーム・低用量ピル・IUD・IUS・緊急避妊薬を、妊娠を防ぐ効果と性感染症を防ぐ効果という2つの軸に分けて整理します。
低用量ピルに変えたから、コンドームはもう要らない。
そう判断した人もいるはずです。避妊効果だけを見れば、筋は通っています。低用量ピルもIUD・IUSも、コンドームより避妊効果の数字は高くなります。
けれど「妊娠を防ぐ効果」と「性感染症を防ぐ効果」は、別の軸です。妊娠と性感染症の両方を防げる避妊法は、コンドームだけです。避妊効果をどれだけ上げても、この空欄は埋まりません。
4つの方法を、2つの軸に並べる
避妊法にはそれぞれ、妊娠を防ぐ効果の強さと、性感染症を防ぐかどうかという、独立した2つの値があります。代表的な4つの方法を並べます。
避妊効果の数字は、正しく使った場合と一般的な使用の対で見る必要があります。忘れる・ずれるといった、実際の使われ方のばらつきを含むのが一般的な使用のほうです。数字は2011年に発表された、米国の避妊失敗率に関する系統的レビューから取りました。
(一般的な使用) 性感染症を防ぐか コンドーム 18%正しく使えば2% ◯体液由来の感染症は一貫使用でリスク低減。梅毒・ヘルペスなど皮膚接触由来は限定的 低用量ピル 9%正しく使えば0.3% ✕防御機序なし(クラミジア以外はリスクを増減もしない) IUD・IUS 0.2〜0.8%レボノルゲストレルIUS 0.2%、正しく使った場合も変わらず・銅付加IUD 0.8%、正しく使えば0.6%(銅付加IUDは2024年12月に国内販売終了) ✕HIVを含め予防効果なし 緊急避妊薬 事後・単発「一般的な使用」という軸が当てはまらない。詳しい数字は下の表 ✕学会指針が明記
使わなかった比較表の数字はアメリカの調査(2011年)によるものです。日本国内で一般的な使用と正しく使った場合を分けて避妊失敗率を調べた資料は見つかりませんでした。[日本産科婦人科学会が示すパール指数](https://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf)(レボノルゲストレル配合製剤で0.11〜0.29)は、日本国内の臨床試験・市販後使用成績調査から得られた数字です。正しく使った場合と一般的な使用を分けて測ってはおらず、一般的な使用の数字とは単純に比較できません。他の配合剤(ノルエチステロン配合製剤など)では、パール指数が1.82〜2.98とこの範囲を超える報告もあります。迷ったら、この表の数字(アメリカのデータ)はおおよその目安として使い、自分の避妊薬の正確な失敗率は処方医に確認します。
混同の正体
避妊効果と性感染症を防ぐ効果が別の軸だという注記は、探すとあちこちに出てきます。数えてみました。
- WHOの家族計画ファクトシート(2025年7月更新):妊娠と性感染症〈HIVを含む〉の両方を防げる避妊法は、コンドームだけだと明記
- 日本WHO協会のIUDファクトシート(WHO本部発の翻訳):HIVを含む性感染症の予防には効果がない、感染リスクがあるならコンドームの使用を勧めると明記
- 日本産科婦人科学会の緊急避妊法の指針(令和7年4月改訂版):指針の4本柱の1つとして、緊急避妊薬がHIV/AIDSを含む性感染症を予防するものではないことを明記
3つとも、別々の組織が、別々の避妊法について書いた資料です。それぞれが独立に、同じ注記を必要としています。この繰り返しを、わたしは取り違えやすさの手がかりだと受け止めています。避妊効果が最も高い方法でも、この注記は省かれません。
コンドームの◯の中身
コンドームだけに◯がつくのは、防いでいる仕組みが物理的な遮断だからです。ただし遮断できる範囲は、感染経路によって変わります。CDCの現場向けコンドームファクトシートは、病原体を性質ごとに分けて説明しています。
体液で運ばれる感染症
- HIV
- 淋菌
- クラミジア
- トリコモナス
皮膚の接触面で運ばれる感染症(防御は限定的)
- 梅毒
- 性器ヘルペス
- 軟性下疳
左のグループの中でも強さは一様ではありません。HIVは一貫した正しい使用で「高度に有効」、淋菌・クラミジア・トリコモナスは「リスクを低減する」という段差があります。
HPV感染はどちらのグループにも収まりません。コンドームの使用でリスクを低減できる可能性がありますが、子宮頸部検診・HPVワクチンの代わりにはなりません。
体液で運ばれる感染症は、精液や腟分泌液の接触そのものをコンドームが遮るので、遮断の範囲と感染経路がほぼ重なります。皮膚の接触面で運ばれる感染症は、性器の潰瘍やただれのある部位が直接触れれば、コンドームに覆われていない場所からでも感染します。同じ「コンドームを使う」でも、防げる感染症と防ぎきれない感染症が混在しています。
ピルは「防がない」で終わらない
低用量ピルは、性感染症を防ぐ仕組みそのものを持ちません。コンドームのような物理的な遮断がないためです。日本産科婦人科学会の低用量ピルガイドライン(案)は、服用そのものが性感染症のリスクを上げるか下げるかを、別の角度から検討しています。
答えは、クラミジア頸管炎を除き、リスクの増加とは関連がない、というものです。裏を返せば、クラミジア頸管炎だけは例外です。性感染症のリスクが高い女性では、消退出血以外にも不正出血が見られる場合、リスクが上がる可能性が示唆されています。
ここで確認しておきたいのは、この結果が「ピルは性感染症を防ぐ・防がない」の話ではないということです。もともと防ぐ仕組みを持たないピルの服用が、感染リスクそのものを動かすかどうかという、別の問いへの答えです。ピルは性感染症のリスクを、クラミジア以外は増やしも減らしもしません。防御はゼロです。
効果が上がると、行動が変わる
避妊効果が上がるほど、コンドームを使う判断そのものが動くという報告があります。1990年から2018年までに発表された研究をまとめたシステマティックレビューが、その関連を数字にしています。
- 対象
- 1990年1月〜2018年7月に発表された、長期作用型可逆的避妊法(IUD・インプラント)と性感染症の関連を調べた査読済み研究33件
- 測ったもの
- IUD・インプラント利用者と、経口避妊薬利用者・注射/パッチ/リング利用者それぞれとのあいだの、コンドーム使用率とクラミジア・淋菌・トリコモナス感染率の違い
- 結果
- IUD・インプラント利用者がコンドームを使う確率は、経口避妊薬利用者と比べて低く(オッズ比0.43)、注射・パッチ・リング利用者と比べても低い(オッズ比0.58)。トリコモナス感染の確率は経口避妊薬利用者と比べて高い(オッズ比2.01)。クラミジア・淋菌は統合した推定値で有意差なし
- 限界
- 米国を含む20カ国のデータで、日本人女性を対象にした同種の研究は見つからない。IUD・インプラントに切り替えるとコンドームを使う確率が下がるという同じ動きが、日本でもそのまま起きるかは確認されていない
IUD・インプラントの利用者は、経口避妊薬の利用者よりコンドームを使う確率が低く、トリコモナス感染の確率は高いという結果です。避妊の不安が減った分だけ、性感染症への備えも一緒に緩む、という動きが実際のデータに出ています。 ここは、思い込みが行動に表れている箇所として引っかかっています。
日本の実態
日本では、避妊法をめぐるこの逆転は、まだ実感として薄い状態です。国連人口部の避妊法使用実態データ(2015年調査・15〜49歳女性)を見ると、理由が分かります。
避妊法を使っている人のうち、コンドームが4分の3ほどを占め、ピル・IUDは少数派です。低用量ピルやIUD・IUSへの切り替えそのものが、まだ少数派の選択です。ピル・IUDを使っている人が少ないからといって、その判断が間違っているわけではありません。この記事が壊そうとしている思い込みは、これから切り替えを検討する人、パートナーが変わった・増えたタイミングで方法を選び直す人に、特に関わります。
緊急避妊薬でも変わらない
緊急避妊薬は、性交後に使う避妊法です。ここにも同じ注記がつきます。
方法はレボノルゲストレル(LNG)製剤と子宮内避妊具の2つで、使えるタイミングと妊娠を防ぐ効果はそれぞれ違います。WHOのファクトシートと日本産科婦人科学会の指針の数字を並べます。
緊急避妊薬にも、子宮内避妊具にも、性感染症を防ぐ効果はありません。日本産科婦人科学会の指針の巻末Q&Aは、心配なら性感染症の検査・相談についてかかりつけの産婦人科医に率直に尋ねるよう案内しています。事後に使う特別な方法であっても、性感染症の空欄は埋まりません。
今夜、自分の方法を当てはめる
- 今使っている、または検討している方法を確認する コンドーム・低用量ピル・IUD・IUS・緊急避妊薬のどれか、あるいは組み合わせているはずです。
- 最初の対応表に自分の方法を当てはめる 妊娠を防ぐ効果が高くても、性感染症を防ぐ列がコンドーム以外はすべて✕であることは変わりません。
- 妊娠の不安が減った分だけコンドームをやめてよいわけではないと知っておく パートナーが変わった・増えたタイミングでは、必要ならコンドームとの併用を検討します。
- 受診のラインを持っておく 緊急避妊薬を使うなら性交後72時間以内、子宮内避妊具を使うなら5日以内に動く必要がある(銅付加IUDは2024年12月に国内販売終了、現在はレボノルゲストレルIUSが代替)/コンドームが途中で破れた・外れた/排尿時の痛みやおりものの変化など性感染症を思わせる症状がある。このいずれかに当てはまれば、その日のうちに産婦人科・婦人科に相談します。夜間・休日で診療時間外なら、開いている産婦人科・婦人科(救急外来を含む)を探して連絡します。緊急避妊薬・子宮内避妊具を使った直後も、性感染症の検査・相談は別に必要です。個別にどの避妊法が体に合うかは、この記事では判定しません。
パートナーが変わるタイミングでコンドームの併用を切り出すなら、避妊法の説明を一から重ねる必要はありません。「性感染症の検査もしてからにしたい」のひと言で足ります。
参考にした資料
- Trussell J.(2011)避妊法ごとの失敗率(Perfect use/Typical use)に関する系統的レビュー(Contraception)
- WHO「Family planning/contraception」ファクトシート(2025年7月改訂)
- CDC「Male Latex Condoms and Sexually Transmitted Diseases」ファクトシート(2022年2月改訂)
- 公益社団法人日本WHO協会「子宮内避妊用具(IUD)」ファクトシート(WHO本部発の翻訳)
- 日本産科婦人科学会「低用量経口避妊薬ガイドライン(案)」(平成27年3月)
- 日本産科婦人科学会「緊急避妊法の適正使用に関する指針」(令和7年4月改訂版)
- WHO「Emergency contraception」ファクトシート(2021年11月改訂)
- Steinerら(2021)長期作用型可逆的避妊法・コンドーム使用・性感染症に関する系統的レビュー(Am J Prev Med)
- 国連人口部「Contraceptive Use by Method 2019」データブックレット