「自分の手がいちばん気楽」が届かない人へ——ひとりで確かめる、その最初の一段
どこを、どのくらいの強さで、どうなれば成功なのか。習慣のない人にとっては、そこが全部わからないまま「気楽なこと」として飛ばされています。区切って比べるための手順を置いたうえで、力を抜けばいいわけでもない理由を神経の側から説明します。
「いちばん気楽なのは自分の手」——性の情報でよく見るこの一文は、すでにやっている人にとっては正しい説明です。道具も相手も要らず、失敗のコストもありません。やったことがない側から読むと、どこを、どのくらいの強さで、どうなれば成功なのかが全部抜けています。
正解が教われないのは、そもそも人によってばらばらだからです——女性1,055人への調査は、触る場所も、圧の強さも、動かし方の形も、好みがばらついたと報告しています。なぜばらつくのかは、その調査でも調べられていません。合う場所を決めているのが神経の通り方なのか、それまでの慣れなのか、その日の状態なのかは、まだ切り分けられていません。それでも手順は作れます。理由のほうから自分の答えを逆算できない以上、3か所×2種類の6通りを1つずつ試して、合わないものから外していく。正解は決められなくても、範囲は狭められます。
痛みがあるときは、ここで止まってください
下着の上から、あるいは直接に触れて痛い・ヒリヒリする・ズキズキする——このどれかがあるなら、この記事の範囲を超えます。
厚生労働省研究班監修のヘルスケアラボは、性交痛の原因として炎症・感染、乾燥、骨盤内の疾患、心理的要因を並べています。身体の側にも心理の側にも原因が挙がっているので、どちらであっても慣れの問題ではありません。
婦人科では「外陰部に触れると痛い」「ヒリヒリする」と伝えれば通じます。いつから・どこが・何をしたときか、この3つだけ言えれば足ります。症状があって受ける診察なので、原則として保険診療の範囲です。自費になる例もあるので、費用が気になるなら受付で先に確認できます。
挿入で痛む・指が入らない場合は、この記事では扱いません(セックスが痛いへ)。乾きだけが気になる段階なら、濡れないにまとめました。
どこを——外から見えているのは、全体の一部です
クリトリスは、外に見えている部分だけの器官ではありません。外に出ているのは先端の亀頭部だけで、そこから恥骨のほうへは根もとにあたる部分が皮膚の下を通り、その先で左右へ脚が分かれます(2005年の解剖学のレビュー)。外の一点で全部だと思っていたとしても、それは覚え損ねたからではありません。このレビュー自体が、それまでの解剖書では根もとや脚の記述が省かれたり不正確だったりしたことを指摘しています。専門の側がそうだったので、外に見える一点だけを指す呼び方が、そのまま性の情報にも残りました。あとで触る3か所に「先端の横」と「恥骨との中間」が入っているのは、脚と根もとがその皮膚の下を通っているからです。外から触れられるのはその上を覆う皮膚の面だけなので、探すのは点ではなく、面のどのあたりが自分に合うかになります。
自分のからだの上での位置を確かめる方法も、最初の一段としては「触る」より前に置けます。見ることです。明るい場所で、椅子に浅く座って背もたれか壁に背中をつけ、両ひざを立てて開きます。鏡は片手で持てる小さいもので足ります。
たどる順番はひとつだけ決めておきます。左右のひだ(小陰唇)を、おへそ側へ目でたどっていくと、二枚が合わさるところに三角の小さなフードがあります。そのフードに包まれているのが、外に出ている先端です。隠れて見えないこともあります——めくって探さなくて構いません。位置さえ分かれば足りて、触る手順はこの「フードのある場所」を起点にします。
ここで、見た位置を指へ移しておきます。フードの場所が分かったら、見えている状態のまま人差し指をフードの上に置き、その隣に中指、薬指と、硬い骨(恥骨)に当たるまでおへそ側へ並べていきます。1本で当たることもあります——何本ぶんだったかを、一度だけ数えておきます。見えない状態でも、恥骨から逆に同じ本数を戻れば同じ場所に着きます。布ごしに触る日は、まずここに指を置いてから始めます。
鏡を見るのに抵抗があるなら、見ないで起点を取ることもできます。仰向けで、下腹のいちばん下にある硬い骨(恥骨)に指を当て、そこから足のほうへ指を1本ずつ下ろしていくと、左右のひだが合わさって少し盛り上がるところに当たります。そこがフードです。同じように何本ぶんで着いたかを数えておけば、次からは恥骨から同じ本数で戻れます。見る手順は、やりたくなった日で構いません。
触る段に進んだときも、「面」のままでは広いので、区切って順に試すだけにします。この手順では、中に指を入れません。触るのは外側だけで、合う・合わないの振り分けはそれでできます。
- 布ごしから始める。下着や薄い布の上からなら、強すぎて痛くなることも、弱すぎて何も分からないことも起きにくくなります。指の腹が当たって皮膚がわずかに動く程度で、押して沈む感じがあるなら強すぎます。この日の圧を覚えておきます。
- 場所を3つに分ける。フードの上そのもの/そこから指1本ぶんだけ横(左右どちらか、やりやすいほうだけで構いません)/フードと恥骨のちょうど真ん中(1本で骨に当たった人は、指の幅の半分だけ恥骨側)。1か所ずつ、30秒ほど。2か所を同時に触らない。片側で③が出たら、そのときだけ反対側も同じように試します。
- 動かし方は2つだけ比べる。上下になぞる/小さく円を描く。速さはどちらもゆっくりで、上下なら1秒で指2〜3本ぶん、円なら1周2〜3秒くらい。この速さは前腕の皮膚で撫でる速さと快さを測った2009年の研究から借りた目安で、性器の皮膚でも同じかは確かめられていません。守る数字ではなく、迷ったら遅いほうを選ぶための線です。強く速くから始めると、自分に合う範囲を通り過ぎたことにも気づけません。
- 手を止めてから、3つに振り分ける。触っている最中には判定しません——「今どれだろう」と自分を観察すること自体が、あとの節に出てくる注意の負荷になります。時間もタイマーでは測らず、ゆっくり30数えるくらいで手を離して、①嫌だった(痛い・くすぐったい・落ち着かない)/②何も感じなかった/③もう少し続けてもよかった、に振り分けます。外れは①だけです。③にするのは、手を止めたのが少し惜しかったときだけで足ります。迷ったら②に入れておきます——②は消さずに保留にするので、順番が後のほうで変わることがあります。
姿勢は、見るときほど整えなくて構いません。仰向けで両ひざを軽く立て、下着の上から利き手の指を置くだけです。もう片方の手は使いません。
全部で3か所×2種類の6通りです。1日で全部やる必要はありません。途中でやめて、次の日に続きから試せます。順番を決めておけば、覚えなくて済みます。フードの上→その横→中間の順に、それぞれ上下→円。今日どこまで進んだかだけ持っていれば、次はその次から。書き留めるなら、スマホのメモに「1-2」とだけ。開いても何のことか分かりません。
①が出たところは、その場所が合わないとは限りません。初めて触るときの「くすぐったい」は、場所ではなく強さのことが多いからです。だから①は、③が一つでも出た日にだけ外します。
①と②だけで③が一つも出なかった日は、②しか出なかった日と同じ扱いにして、触れ方を弱いほうへ一段変えます(直接なら布ごしへ、布ごしならもう一枚重ねるか、皮膚がほとんど動かない程度まで)。そのうえで、①だったところも含めて6通りをもう一周します。弱くしても①のままだったところだけ、次から外します。
6通りすべてが②で終わった日は、場所や動かし方ではなく触れ方を一段だけ変えて、同じ6通りをもう一周します(布ごし→直接+潤滑)。変えるのは一度に一つだけです。
③が出た組み合わせから、次にやるときは始めます。そこだけ時間を延ばします。場所も動かし方も速さも変えず、30秒を2分に。ここで変えるのも一つ、長さだけです。2分の途中で続けたくなったら、そのまま続けて構いません——上限は決めません。強さや速さを変えたくなったら変えてよく、そのときも一度に一つだけです。やめどきは「続けたい」が消えたときで、そこで手を離せば足ります。2分続けても③のままなら、それが今の自分のひとつです。見つかった時点で、この手順は役目を終わります。次からは数えなくて構いません。
③が出た先に何が起きるかは、この手順では決めません。③を続ければ絶頂に届くのか、届くならどのくらいかかるのかは、この記事が引いた研究では分かりません。好みのばらつきを調べた調査は触り方とオーガズムの経験を同じ人たちに尋ねていますが、ある触り方を続けた人がそこへ届くかまでは追っていません。撫でる速さを測った実験が扱ったのも、前腕の皮膚の快さまでです。冒頭に置いた「どうなれば成功なのか」に、この手順が返せるのは③までです。
しばらくして③が②に変わったら、そのときまた6通りに戻ればいいだけです。途中で②に落ちたら、長さは30秒に戻して、代わりに触れ方を一段だけ変えます。
触れ方を変えて一周しても、まだ全部が②だったら、そこで一度打ち切ります。②しか出ないのは失敗ではなく、今の条件では差が出なかったという結果です。次に変えるのは場所でも触れ方でもなく、条件のほうです——眠る直前をやめる、間を1週間あける、邪魔の入らない時間を作り直す。
条件を変えて6通りをもう一周しても②のままなら、指の圧では差が出なかった、というところまでが分かったことです。次に変えられるのは刺激の種類で、手では作れない細かい振動を使う道具があります(選び方は初めてのプレジャーアイテムにまとめました)。同じ3か所・同じ30秒・同じ①②③の振り分けのまま、指を道具に替えるだけです。道具でも②しか出ないなら、それはもうこの手順の外の話なので、婦人科で相談してよい範囲です。「感覚が乏しい」と伝えれば通じます。
直接に切り替える日のこと
布ごしで物足りなくなったら、同じ順番のまま直接に切り替えます。変えるのはここだけで、場所も動かし方も速さもそのままです。爪を短く切って手を洗います。乾いたまま擦ると痛みが出るので、ドラッグストアで買える水性(水溶性)の潤滑ゼリーを足します。米粒くらいを指先にとって、触るほうの指に薄くのばすだけで、からだに塗り込む必要はありません。乾きやすいので、引っかかってきたら同じだけ足します。強さは布ごしの日と同じにします。思い出せなくて構いません——触る前に、反対の手の甲を同じ指で一度撫でて、皮膚がわずかに動くだけで沈まない強さを作り、その手つきのまま移せば戻れます。布より素肌のほうが当たりは強く出るので、直接の日は最初の10秒だけ、そこから少し弱いところで入って合わせます。製品の比べ方は潤滑剤の記事に、毎回の乾きが気になるなら濡れないへ。
力を抜けばいい、でもありません
「緊張していると感じにくい」はよく言われます。ただ、交感神経の活動と性器の反応の関係を測ると、逆U字になります。活動が低すぎても、高すぎても、反応は下がる(2012年の研究)。完全に弛緩した状態が最良ではありません。
もう一方に、注意の側の実験があります。参加者に中立的な——性とは無関係の——注意課題を与えるだけで、性器の反応が低下しました(2006年の研究)。注目すべきは、性的な問題を持つ人と持たない人で、この低下に差がなかったことです。
気が散れば誰でも下がりますが、「リラックスしなきゃ」と自分を管理するのも、それ自体が注意の負荷になります。
静かで邪魔の入らない時間を確保するのは、気合いの問題ではなく注意の負荷を物理的に減らす手当てです。確保するのは長い時間ではありません。1日ぶんは、1か所を2種類ためして1分です。鍵のかからない部屋なら、入浴後の脱衣所か、家族が寝たあとの布団の中で足ります。スマホは通知を切って裏返すか、別の部屋に置く——鳴るかもしれないと思っていること自体が、その注意の負荷です。
もう一方、活動が低すぎる側の手当ては、気分を上げることではなく時間帯を選ぶことです。眠る直前の、力が抜けきって意識も落ちかけている時間は、逆U字の左端にあたります。起きていて、その日にやることがもう残っていない時間に置く。ここは研究が直接測った場所ではなく、逆U字の形から見当をつけた場所です。眠る前が合わなければ、同じ理屈——その日の用事がもう残っていない時間——で、自分に合う時間を探せば足ります。
気が進まないときのこと
性的な関心は、興奮に先行することもあれば、後から追いついてくることもあります。18〜84歳の女性80人に話を聞いた2004年の質的研究が、その両方を報告しています。始めてから気持ちがついてくる順番は、実際にあるものとして語られています。
ただし、これを「義務にすればいい」と読み替えないでください。課題にした瞬間に、上の逆U字の右側(緊張が高すぎる側)に振れます。 やらない日があっても構わない、という前提とセットでのみ成り立ちます。
気が進まない日のいちばん軽い一段は、前に置いた位置を確かめるだけです。手鏡でも、恥骨から指を下ろすのでも構いません。その日はそれで終わりにする。触る日と確かめる日を分けておけば、気が進まない日にも選択肢が一つ残ります。
最初の一段は、今いる場所から
今日やることは、位置を確かめるところまでで足ります。恥骨に指を当てて、フードまで指何本ぶんかを数える。触るのは次の日でも、来週でも。本数さえ覚えていれば、間があいても同じ場所から始められます。
参考にした資料
- Herbenick ら(2018)女性の性器接触・快・オーガズムの経験(J Sex Marital Ther)
- O'Connell ら(2005)クリトリスの解剖(J Urol)
- Cleveland Clinic「Clitoris」(市民向け解説・外から見えない部分を含む全体構造)
- Löken ら(2009)快い触覚を符号化する無髄線維(Nature Neuroscience)
- Lorenz ら(2012)交感神経活動と性器反応の逆U字関係(Psychophysiology)
- Salemink ら(2006)注意の負荷が性器反応と主観に与える影響(Arch Sex Behav)
- Graham ら(2004)女性の性的興奮の質的研究(Arch Sex Behav)
- 女性の健康推進室ヘルスケアラボ「性交痛」(厚生労働省研究班監修)
- MSDマニュアル家庭版「性器‐骨盤痛・挿入障害」(水性の潤滑剤は乾きやすく塗り直しが要る/油性より好まれる)