イケないのは体質ではない——オーガズムの仕組みと、研究でわかっている4つの工夫
「挿入でイケない」は多数派です。米国の大規模調査では、挿入だけで達する女性は18.4%。クリトリスの構造、オーガズムギャップの数字、3,017人調査で報告された4つの工夫まで、研究ベースで説明します。
「挿入でイケない」を、自分の欠陥として抱えている人へ。最初に数字を置きます。
米国の成人女性1,055人を対象にした確率標本調査(Herbenick ら、2018)では、挿入だけでオーガズムに達すると答えた女性は18.4%。36.6%は「挿入中のオーガズムにはクリトリスへの刺激が必要」、さらに36%は「必須ではないがクリトリス刺激があったほうが良い」と回答しています。合わせて7割以上が、挿入以外の要素を必要または有益としている。
つまり「挿入でイケない」は、多数派です。壊れているのでも、鈍いのでもありません。
なぜそうなっているのか——構造の話
理由は感度や相性ではなく、単純に位置です。
クリトリスは、外から見える部分(亀頭部)が全体のごく一部で、内部には、逆さにしたVの字のかたちで左右に脚を伸ばす構造が広がっています。全長はおよそ9〜11cm。そして外から見える亀頭部には約10,000の神経終末が集まっています(Cleveland Clinic の解説より)。
一方、挿入という動作は、この神経の密集地帯をほとんど通りません。腟のなかを通ります。いちばん感じる場所を素通りする動作で達しようとしている——構造だけ見れば、18.4%という数字はむしろ自然な帰結です。
この構造のズレは、社会の数字にもそのまま現れています。52,588人を対象にした調査(Frederick ら、2018)では、性的な場面で「ほぼ毎回オーガズムに達する」と答えた割合は異性愛男性で95%、異性愛女性で65%。30ポイントの差です。そして興味深い並びがあります。レズビアン女性は86%。女性のからだが達しにくいのではなく、挿入中心の進め方が女性のからだの構造と噛み合っていないことを示唆する並びです。同調査では、オーラルや手での刺激・キスを組み合わせた場合に女性のオーガズム頻度が高いことも報告されています。
なお、ここまでの数字はすべて米国の調査です。日本でこの粒度の公開調査は、わたしの知る限りまだありません。見つけ次第、この記事に足します。
研究で報告されている4つの工夫
では構造に合わせるとはどういうことか。米国の成人女性3,017人を対象にした調査(Hensel ら、2021・PLOS ONE)が、挿入をより快くする工夫を4つに分類し、それぞれ「これで快感が増す」と答えた女性の割合を報告しています。
| 工夫 | 内容 | 快感が増すと答えた割合 |
|---|---|---|
| Angling(角度づけ) | 挿入中に骨盤や腰を回す・上げ下げして、内側の当たる場所を調整する | 87.5% |
| Shallowing(浅めの刺激) | 入口のすぐ内側だけへの浅い刺激にとどめる | 83.8% |
| Rocking(揺らし) | 抜き差しせず深く合わせたまま、根元がクリトリスに触れ続けるように揺れる | 76.4% |
| Pairing(組み合わせ) | 挿入と同時に、自分またはパートナーの手でクリトリスを刺激する | 69.7% |
数字の読み方に注意をひとつ。これは「この工夫でオーガズムに達した割合」ではなく、「快感が増すと答えた割合」です。魔法の手順表ではありません。それでも、4つに共通する原理は明快です——どれも、刺激の場所と加減の決めどころを、受け取る側に戻している。角度も深さも組み合わせも、自分のからだに合わせて動かしていい、ということです。
Shallowing(浅めの刺激)には、先ほどの構造の話がそのままつながります。入口のすぐ内側は、クリトリスの内部構造がちょうど左右から取り囲んでいるあたりです。「深くないから物足りない場所」ではありません。
ひとりで確かめてから、でいい
4つの工夫を、いきなりパートナーの前で試す必要はありません。どの角度で、どのあたりが、どのくらいの強さが心地よいのか——それを最初に知るのに、いちばん確実で、いちばん気楽なのは自分の手です。自分でわかっていることは、相手に伝えられることになります。逆に、自分でもわかっていないことを、相手が当てられる見込みは高くありません。
道具(プレジャーアイテム)を使う人もいます。それは近道のひとつで、ずるでも特別なことでもありません。モノの選び方はこのサイトのモノの棚で少しずつ扱っていきます。
パートナーに切り出すときは、大きな相談にしなくてかまいません。Pairing なら「自分の手を添える」という動作から始められます。宣言ではなく動作から入れるのが、この工夫の言い出しやすさです。
「学べるものなのか」について
「結局、生まれつきでは」という疑問には、途中経過の研究があります。成人女性870人にこの種の知識コンテンツを4週間利用してもらった研究(2022)では、自分の快感の好みについての知識と、実際の体験の快さの両方に、統計的に有意な向上が報告されました。ただしこれは比較対照群のない事前事後デザインで、開発元の関係者が著者に含まれます。「学習で変わる可能性を示す予備的な研究がある」——現時点で言えるのは、正確にはここまでです。
それでも、この記事で紹介した数字が指す方向は一貫しています。オーガズムの困難の多くは、体質の問題としてではなく、構造の知識と進め方の問題として説明がつく。知識で説明がつくものは、知識で動かせる余地がある、ということです。
補足:それでも、という場合
- 達しないことに痛みが伴うなら、先に痛みの記事を。痛みがある状態で工夫を重ねても、からだは防御を優先します
- 達しないこと自体を強いストレスに感じる状態が続くなら、それは婦人科や性科学の外来で扱われる相談内容です。「イケないことがつらい」は、医療の窓口に持ち込んでよい悩みです
- 最後にひとつ。オーガズムは義務ではありません。この記事は「達するべきだ」と言うためではなく、「達したいのに構造を教わってこなかった」人のギャップを埋めるために書いています。今日の到達点を採点する必要は、誰にもありません。