骨盤底筋は「鍛える」だけではない——締められない側と、緩められない側
骨盤底筋のトレーニングが勧められる一方で、緩められないことが痛みにつながっている場合もあります。国際的な用語では骨盤底の状態は複数に分類されていて、どちら側かで最初の一歩が変わります。見分けの手がかりと受診ラインまで。
骨盤底筋について検索すると、出てくるのはほぼ「鍛える」話です。締める、持ち上げる、回数をこなす。 産後にも、尿もれにも、同じ答えが返ってきます。
この記事で最初に置きたいのは、別の可能性です。骨盤底筋には、締められない状態と、緩められない状態の両方があります。 そして後者に対して締める練習から入ると、方向が合いません。
国際的な用語では、複数の状態に分けられている
国際禁制学会(ICS)は、骨盤底筋の状態を分類する用語を定めています。正常のほかに、 過活動、低活動、機能しない状態が並んでいます。
このうち過活動は、骨盤底筋が弛緩しない、あるいは機能的に弛緩が必要な場面でむしろ収縮してしまう 状態として定義されています。弛緩が必要な場面というのは、たとえば排尿や排便のときです。
つまり、骨盤底の問題は「力が足りない」の一方向ではありません。力を抜く側が働いていないという状態が、 国際的な用語の中に最初から置かれています。
緩められない側では、症状の出方が違う
弛緩できない骨盤底について、2025年の総説が臨床像を整理しています。
- 対象
- 弛緩できない骨盤底の機能障害についての総説(泌尿器科領域の専門誌・2025年)
- 扱っているもの
- 不適切な筋弛緩、または逆説的な収縮によって起きる骨盤痛・排尿排便の問題・性機能の問題
- 結果
- 神経や構造の閉塞が無いのに、排尿に時間がかかる・いきむ・尿の勢いが弱い・残尿感が出る。治療の第一選択は骨盤底理学療法で、保存的な対応の基礎をなすと位置づけられています
- 限界
- 総説であり、個々の治療の効果を検証した試験ではありません。日本国内での実施体制についても扱っていません
ここで大事なのは、排尿の症状と痛みが同じ場所から出ているという見立てです。 尿もれだけを見て「鍛える」に進むと、逆の側にいる人には合いません。
性交痛との関係
骨盤底の過活動と性機能の関係については、2021年の総説が研究を整理しています(出典は記事末尾)。 そこで述べられているのは、生物学的な要因と心理社会的な要因の複雑な絡み合いが、 骨盤底の過活動による症状の持続につながりうる、という位置づけです。
わたしがここで断定を止めるのは、この総説の本文は有料で、確認できたのは要旨の範囲までだからです。 「骨盤底の緊張が性交痛の原因である」と言い切れる材料は、この記事の手元にはありません。 言えるのは、研究の側がこの関係を扱う領域として立てている、というところまでです。 性交痛そのものと骨盤底筋の緊張を結ぶ個別の研究については、要旨の範囲では確認できませんでした。
痛みの側から整理したい場合は、セックスが痛いに痛みの種類ごとの 分け方を書いています。
どちら側かの手がかり
まず先に書いておきます。「排尿を途中で止められるか」を自己チェックとして勧めません。 排尿の中断を繰り返すことについては、排尿機能への影響が指摘される場面があります。 確かめる目的でこれを繰り返すのは避けてください。
代わりに、上の総説が挙げている症状のほうを手がかりにできます。
| 観察 | どちら側を示唆するか |
|---|---|
| くしゃみ・笑い・跳ぶ動作でもれる | 締める側が働いていない可能性 |
| 排尿に時間がかかる、いきまないと出にくい | 緩める側が働いていない可能性 |
| 出し終わった感じがしない、残っている感じがある | 同上 |
| 排便でいきむ時間が長い | 同上 |
| タンポンや内診がつらい、入口で止まる | 同上 |
両方に当てはまることもあります。その場合こそ、自己判断で回数を増やす前に評価を受ける側です。
受診のライン
次のどれかに当てはまるなら、自分でトレーニングを設計する前に医療機関で評価を受けてください。
- 性交時の痛みが繰り返している
- 排尿に時間がかかる、残尿感がある、出しにくい状態が続いている
- 骨盤の痛みが日常生活に影響している
- すでに骨盤底筋トレーニングを続けていて、変化が無い、または悪化している
かかる先は婦人科または泌尿器科です。受付では「性交時の痛み」「排尿しにくさ」とだけ伝えれば通じます。 骨盤底の理学療法を行っている施設は限られるため、電話で「骨盤底のリハビリをやっているか」を 先に確認しておくと移動が無駄になりません。
日本では『女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版]』(日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会、2019年)が 下部尿路症状と性機能の関係、および行動療法としての理学療法を、それぞれ独立した問いとして立てています。 問いとして扱われている領域だ、ということは受診の場で前提にできます。
締める前に、抜けるかどうかを確かめる
この記事は、トレーニングの手順を渡す記事ではありません。回数もセット数も書いていません。 一次出典で確認できなかったからです。
渡せるのは、順番の話だけです。自分がどちら側かを確かめるのが先で、鍛えるかどうかはその後。 上の表で緩める側に当てはまる項目が多いなら、回数を増やす方向へ進む前に、 評価してくれる場所を探すところから始めてください。